短歌の目 第1回:3月 感想ノック
3月の『短歌の目』感想ノックです。前回同様、気に入って引用スターをつけた中から一首選んで簡単な感想を書き添えていきます。
あくまでもわたしの読みなので、想定していた解釈と違う解釈が返ってくるかもしれませんが、それも三十一文字の面白さと思って楽しんでくださいませ。
3月の題詠短歌10首および投稿作品ご紹介です - はてな題詠「短歌の目」
卯野さん、いつも主宰ありがとうございます!感謝感謝。
また、今回は提案したお題からいくつか採用されています。
雛、苺(いちご)、夕、羊、線、信号をお題として出しました。これは仕事からの帰り道にぽわぽわと思いついたものですね。それにしても花粉症だからって「杉」とか「鼻」を提案したわたしはどうかしてましたね。。
自分の提案したお題がどんな言葉の衣装をまとってどんな姿で現れるのか、それを味わうのもまた至福の時間でありました。
前回同様参加者33名全員の感想をエントリー順に並べてます。
長いですが、お楽しみくださいませ。
☆ * ☆ * ☆
7.線
「僕たちの境界線がなくなった」「もうじき新たな自治区ができるわ」
宣言されていた通り、艶歌が多くてにやにやしながら読みました。境界線はどこに引かれていたのか。自治区は何のメタファーなのか。そのまま読むと新しい命なんでしょうが、敢えてひねくれて解釈すると、新婚とも読めます。新居が自治区で、婚姻関係となることを「境界線がなくなった」としている…ちょっと強引ですが。
2.はてな題詠「短歌の目」3月 - Letter from Kyoto
8.バク
捕まえたバクを食べたということは間接的に夢を食べたの?
おおお、なるほどそういえばそうか…と唸りました。夢を食べるという発想がいいです。この歌の問いかけをしたのが誰なのかを考えると楽しいですね。自分自身なのか、恋人もしくは伴侶なのか、子供なのか、それ以外か。ところでバクって食べられるんでしょうか。
以前は言葉選びを間違えてしまい大変失礼いたしました。無理して褒めているのではなく、自分にない感性と視点が面白いのでいつも楽しみにしています。
3.はてな題詠「短歌の目」3 月 - この国では犬がコードを書いています
3.夕
鈴の音と風が川面をわたる頃 野辺に降り来る青い夕ぐれ
初春なのに一気に夏の夕暮れに連れて行かれた気がしました。鈴の音というどこか涼やかな音色を持つものと風と青を組み合わせたことで、夏の火照った体を冷ましているような情景が浮かびました。美しくノスタルジックです。
4.はてな題詠「短歌の目」いざ、3月 - 本日の手紙 大学生の今日の出来事
10. 信号
青信号すすめの合図で勇み足 「かかってきやがれ」都会に消える
オフィス街の一瞬を切り取ったような鮮やかさです。信号が変わるのを待ちきれずにつんのめりがちに踏み出しちゃう人もいるような。「かかってきやがれ」が勇ましく頼もしいです。凛々しい眉をしたスーツ姿の男が浮かびます。ランチのあとに気が緩みそうな自分を鼓舞しているようでもあります。
5.揺らぎ
揺らぎすぎ二重に見えるペコの首 ヤマザキ春の電撃移籍
『ヤマザキ春の電撃移籍』のインパクトに負けました。最初読んだとき涙が出るほど笑いましたし、今も笑いながら書いてます。
短歌って常套句をいかに裏切るかっていう部分があるのですが、この裏切りはすごい。確かに不二家は山崎製パン傘下だけど、上の句で「あーあるある」と思わせてヤマザキ春の電撃移籍って。この歌大好きです。
6.羊
走破距離・Mod・ミッション・絵と勧誘 さまよう羊「あ、Mu数!」
Ingressをぶん投げた身なので用語の意味がわからないググってもよくわからないと思いながら読んでましたが、この歌は意味がわからないながらもリズム感が好きです。なんとなく日本語ラップ的な味わいがあります。わからないので解説いただけると助かります。
7.短歌の目 第1回:3月 - さらさら録
さらさら録の人の分は明日あたり振り返り記事を書きますのでそちらをご参照ください。
短歌の目 第1回:3月 振り返り話 - さらさら録
8.はてな題詠「短歌の目」3月完全版 - のほほん気紛れ詩歌い
10.信号
ボブガール 黄信号のまま 道別れ
赤では後に恨みになるから
ボブガールっていう響きがいいですね。恨みになる前にきれいに別れようってことなんでしょうね。天賦さんは上の句と下の句と二行で書かれているのですが、これは意図的なものなのかがずっと気になっています。石川啄木が三行書き短歌を詠んだように。
9.はてな題詠「短歌の目」 3月 - 漢前女子と言われ続けたい。
3.夕
夕暮れの 訪れ少し 遅なった 空を見上げて呟く五時半
「遅なった」という方言が効いています。故郷から離れたところにいるけれど、夕暮れが遅くなったことに気づいて思わず方言が出てしまったようでふふふっとなります。定型の文字数調整にもなっているし、とてもいい方言の使い方ではないでしょうか。
10.年度末に羊とバクが苺を喰ってひとり言 - 3月の題詠短歌 - このはなブログ
9.年度末
「さようなら。年度末だし別れましょ。」 彼女の決算 僕の損失
決算と損失という会計用語が年度末感出してます。たぶん彼女は営業事務で、僕は取引先の女性とつき合っちゃった営業。異動とも考えられますね。僕が損失として別れを受け止め計上していることが示唆されていて清々しい悲しさがあります。
11.短歌詠ませてください(短歌の目 第1回) - たまには文章を書かせてください
8.バク
夢たちがあふれる空を僕ら見て 動物園のバクの死を知る
「夢たちがあふれる空」がとても好きです。そこからバクの死に繋がるのも。どこかファンタジックなんですが、決して夢が可視化されてるわけじゃないと思ってます。「僕」じゃなくて「僕ら」と複数形なのも想像をかき立てます。大好きな歌です。
6.羊
緬羊の仕草は土地から失われ 畑、牛舎と都市とが残った
土地から失われたのを姿とせず「仕草」としたことで一気に詩的になっています。畑、牛舎と来て「都市」と来るのが味わい深くて好きです。この「都市」は街じゃなくて大型ショッピングモールだと読みました。朽ちていく田舎の象徴のようです。
13.短歌の目第1回 「3月は讃えよこんなにも生きる我を」 - nerumae
10.信号
明けがたの蜷色(にないろ)に死ぬ信号機よ、讃えよこんなにも生きる我を
「こんなにも生きる我を讃えよ」のほうが文としての収まりはいいんです。けど、倒置法を用いて敢えて収まりを悪くしたところがいいです。死ぬ信号機にそれを強いるというアンバランスさというか不穏さ、そしてそれを跳ねのける願いの強さがあります。
14.短歌を詠んでみる ーはてな題詠「短歌の目」3月ー - 歌うおかあさん
4. ひとり言
あなたにはわからないよとひとり言夜更けのシンクまた一雫
ひとり言を漏らすとき、よく「ぽつり」や「ぼつん」という言葉が使われます。それをシンクに落ちる雫で表してるのがいいです。夜更けの寒々しい孤独に、ひんやりとした銀のシンクと水滴が同意しているようで、冷たさの中に血の温かみがあって好きです。
9.年度末
追いかけて 追いかけて いつの間にか 追われてるの 年度末のフーガ
『恋のフーガ』…!他の歌も好きなものがあるのですが、ザ・ピーナッツの『恋のフーガ』を持ってきてまさかの「年度末」。あの歌はひたすら追いかけてすがりつきますが、いつの間にか逆転してるのが面白い。恋歌とも、仕事の業績とも読めてユニークです。
5.揺らぎ
揺ら揺らぎしぎし 揺れる 義父か岐阜 岐阜は小島信夫の出身地
句またがりでありながらも「ぎ」でリズムが作られており、思わず口に出したくなります。小島信夫という作家の名前が歌を締めていますが、fktackさんのブログに小島信夫カテゴリがあって何だか納得しました。好きな作家へ行き着くまでの伝言ゲームのようです。
まだ春も味噌も浅き汁なべに雛抱くように豆腐はこびぬ
「浅き」がどこまでかかるかを考えるのが楽しいです。春浅き、汁なべ(の底)浅き、味噌浅き…は味噌汁を作るために溶いた味噌が薄い状態でしょうか。汁なべという言葉がすっと出てきたことに語彙力を感じさせました。豆腐を運ぶときのふるふるとした感じが愛おしいです。
18.第1回「短歌の目」 3月のお題 「信号が青になったら進みます。」 - ライティング・ハイ
3.夕
夕闇に発酵しかけの魂を自転車籠から落として帰る
「発酵しかけの魂」というフレーズで引きつけて、それを「落として帰る」という結句への構成が見事です。自転車籠という言葉から溢れる生活感が、謎に満ちた「発酵しかけの魂」をぐっと近づけてくれます。買い物帰りに何か大事なものを落とした、ような気がしました。
19.3月題詠短歌、やややってみた - 感情迷子中のあんずです。
1.雛
あなたの手あなたのかほり 触れたくて摘んだ雛菊片手に持つの
お、乙女だ…!かわいいです。文句なしにかわいらしいです。可憐です。雛菊(デイジー)の花言葉に「無邪気」がありますが、まさに無邪気な女の子のようです。「かおり」ではなく「かほり」なのが奥ゆかしい印象を与えます。わたしには詠めないタイプの歌です。
9.年度末
春! 風が吹いてわたしの鼻掠め 置き去りにしてゆく年度末
春!です!よ!ということで「!」のインパクトに目が釘付けになりました。「春風」という熟語の真ん中に置いて読ませ方に幅を持たせているのがうまいです。春風ってさわやかなイメージですが、初句のインパクトから一転した「置き去り」という言葉がじわりとのしかかります。
7.線
君はなぜ 苦しむ僕に 気づかない? 線路の向こうで 笑うゆみちゃん
3.夕でホテルに入っていったあの娘がこの歌のゆみちゃんだとしたら、ゆみちゃん残酷です。ゆみちゃんっていう固有名詞が出てくることでどんな女の子かなんとなく想像できるのが不思議です。線路は超えられない溝のメタファーといったところでしょうか。
22.企画にのって短歌を詠んでみたよ2 - 今日の良かったこと
2.苺
「あれはなに?」「苺」「たべたい!」1パック 抱え込んで誰にもあげない
子供さんとの会話かな、と想像しました。母親は子に食べさせて自分は我慢する生き物らしいのですが、抱え込んで誰にもあげないという大人げなさが母ではない人間味を感じさせます。母にだって独り占めする自由はありますもんね。
一連の歌を貫く神話的世界観がユニークです。シャロームとサローム、両者の思う平和に隔たりがあり争いが耐えなくとも語源を同じとすることに気づいて遠くアラブへ思いを馳せるのです。歌う羊の心中はいかばかりでしょう、のんびり草を食むことも許されない戦禍の中で。
あの、これは私信ですが、前回怒りの感情だったのに勝手にエロティックと読み間違えてすみませんでした。幸せな妄想に改竄していただけるのなら幸いです。
7.線
何もかもチラシの裏に書き殴り 線を引いたら世界が変わる
チラシの上に「書き」殴り、なのでおそらくは言葉なのでしょう。その上にどう線を引いたのか。罫線なのか、打ち消し線なのか、はたまた斜線なのか。謎を呼ぶ「線」なのですが、その後の「世界が変わる」という力強い言葉が気持ちよく謎を蹴散らしてくれます。
私信ですが、苺の歌は真っ先に『Strawberry SHortcakes』を思い出しました。あれは君が左利きなのが問題なのではなく、僕が左利きに気づいたことが問題なのだと解釈しています。
2.苺
練乳と崩れた苺混じりあいピンクに染まった海へ飛び込む
エロティック枠がえこさんから飛び出すなんて…!と思ったのですが、読み手の問題かもしれません。でもそう読んでしまいました。崩した苺からはみずみずしい汁が溢れ出るし、ふたりで混ざり合ったピンクの海へ飛び込み貪り啜る様子は甘美です。
7.線
建前があるけど本音も見えてるでしょう 打消線の下にある文字
打消線を使うときの心境を言い当てられたようです。「訂正した履歴を残すため」なんて言いながらも、打消線の下の文字を読み取ってほしい気持ちがバレたようでぎくりとしました。線を引いて建前を並べても、本音は譲らないという意志が感じられます。
1. 雛
ヒナと名付けられようとも 成鳥になるのを誰もとめられはせぬ
近頃の女の子の名前では「ヒナ」ちゃんが人気だとか。ひな鳥と呼ばれていても成鳥になっていくし、赤ちゃんに「ヒナ」と名づけても大人の女性になっていく。「とめられはせぬ」が、成長することへの非情さと今への愛おしさを引き立てています。
28.ぼくのかんがえたスーパー短歌(「短歌の目」第一回) - Qの箱庭
7.線
この線にお並び下さいお客様 詰めてもレジは速くなりません
レジあるあるを切り取っているのですが、ただの日常描写に留まらない冷静な目線がユニークです。レジに並ぶおばちゃんって、なんでああもはみ出したりしてるんでしょうね。個人的に、きゅーいんがむさんはお題縛りしないで自由に詠んでいただいたほうが好きです。着想が面白いので。
29.はてな題詠「短歌の目」、3月も参加します!&少し音楽の話 - きまやのきまま屋
5.揺らぎ
水中に この手を濯ぎ 透かし見る 揺らぎの中に 過去が浮いてる
ねこ短歌が安定して愛らしいきまやさんですが、この歌に心を奪われました。山あいの小川に手を浸し掬うあの感覚、静謐な空気と山のにおいがぱあっと浮かんできました。水鏡に映るのは現在の自分ではなく過去。澄んだ中にちくりと胸を刺すものがあります。
30.はてな題詠「短歌の目」 3月のお題 - 有限な時間の果てに
10. 信号
宇宙人 謎の信号 送ってる その正体は 親父の寝言
今回のぽっぷーんさんの作品はいい感じに力が抜けてユーモラスに家族を描写したものが多くて前回よりぐっと良くなったと思っています。
これも、親父の寝言を謎の信号と捉えるだけではなく、親父を宇宙人と捉えているのが面白いです。結句で謎明かしをして生活感をどばっと放出することで、思わず微笑んでしまうような読後感をもたらしています。
9.年度末
済んだもの 在庫・伝票・不意のキス 年度末には綺麗にしましょう
今回のmeibotannさんの歌は、わたしが好きな詩人の石垣りんさんのような働く女性の目線に根ざした歌で「うんうん」と読みました。「在庫・伝票・不意のキス」のリズム感の良さを味わっていると、「綺麗にしましょう」と裏切られる。この感じがたまらないです。不意のキスも年度末に決算する潔さが凛々しいです。
32.はてな題詠「短歌の目」 第1回 3月のお題に参加します - こじらせ女子のつまらない出来事
揺らぎ
会えぬ日々 活字でやりとり線つなぎ 君の揺らぎに僕も震えて
君はだーれだ?で味わいの変わる歌ですね。文字通り想い人ならば、活字のやり取りから伝わる心境の変化に震えたことになります。が、君がもしスマホのバイブならば、返事を見たいけど見たくないそんな状況を想像して苦しくなります。わたしは想い人ではなくスマホのバイブ論を個人的に採用したいです。
7.線
一線を 超えたつもりは ありません 何を言われど 俺は男だ
一線というと、いつから男女間の肉体関係を連想してしまうようになったのでしょう。しかし結句は「俺は男だ」。となると、この「一線」とは何なのか謎が湧いてきます。「据え膳食わぬは男の恥」などという旧い価値観への決別として、敢えて「俺は男だ」と高らかに宣言しているようでもあります。
以上でしたー。
楽しんで読んでいただけたら幸いです。
ではでは、4月の『短歌の目』もしくは月末の『のべらっくす』でお会いしましょう。
あ、その前に自分振り返りも書きますが。
*過去の『短歌の目』