短歌の目 第1回:3月 振り返り話
今月の『短歌の目』の振り返りです。
3月の題詠短歌10首および投稿作品ご紹介です - はてな題詠「短歌の目」
今回、「雛」「苺(いちご)」「夕」「羊」「信号」をお題として提案したわけですが、提案した時点で歌が詠めていたわけではなくお題が発表されてからばばばっと詠みました。でないと飲み疲れた歌がsyrupのツアー祝いにならない(3月1日夕方に発表されたので)。
安定に入らず、次回はいろいろぶち壊せる歌が詠みたいなぁと思ってます。前回の瓜売りのような。
あとね、艶歌って詠むのは楽しいけど振り返るのは恥ずかしいね…!
それでは、振り返りや解説や言い訳をお楽しみくださいませ。
☆ * ☆ * ☆
1.雛
よたよたと雛が後を追うように追えなかったの わたし人間(ひと)だし
雛鳥が親鳥の後を追って歩く姿はかわいいのですが、そこまで追えなかった自分を「鳥じゃないから」と言い訳してる、感じです。この歌は等身大すぎて振り返るのが難しいです。あのとき後を追えていたら今頃何か違ったのかな。あのときっていつのことなんだ。
2.苺
苺ジャム煮込む横顔笑い「これ、あたしの飛び出た腸(はらわた)」と言う
苺ジャムをはらわたと見立てる着想は、川原泉さんの『Intolerance…―あるいは暮林助教授の逆説(パラドックス)』のワンシーンから得ました。作中ではロールシャッハテストもどきに使われ「死んだ人のはらわた」と言われていましたが。こういうちょっと狂った女の子は好きなのですが、モチーフとして使いやすいのもあるんだろな。
この歌をこちらに使ったので、題詠blog2015の「ジャム」の歌はいちごからいちじくになりました。
3.夕
飲み疲れようやく目覚めた俺の目に夕陽は眩しく美しすぎた
要するに、飲み過ぎて休日を無にした歌です。しかも一人酒。飲んでたのはいいちこのポカリ割。実はsyrup16gがツアーやるという公式発表を受けての歌です。意外にも、「これsyrupでしょ」と言われませんでした。前回の「再発」で聴いた『生きているよりマシさ』と『ハピネス』あたりの感じでした。
けっこう気に入ってもらえてうれしい歌です。
4.ひとり言
振り向いた背中に言い訳舌で書く これひとり言、ひとり言だから
リフレインを使いたくて、ここで使いました。下の句が先に出てきて、聞かれたくない独り言を聞かれたときの気持ちをつけ加えてできました。背中って、独り言を投げるにはちょうどいい。壁当てみたいで。気づかれたらちょっと、いやだいぶ困るけど。
5.揺らぎ
測定の不確かささえ許容せよ やまない胸の揺らぎを愛せよ
今回一番好評だったのですが、自分でも大のお気に入りです。ずっと代表作のひとつに挙げたいくらいの。
揺らぎ、からすっと思い出したのが「測定の不確かさ」という言葉でした。これは工学をまったく知らないわたしが、社会人になって技術者さんと働くようになり知った言葉であり概念です。強く惹かれたので、脳の中のいつか使いたい言葉リストに入れていたのですが、こうして陽の目を見ました。不確かさや揺らぎといった強い言葉に、命令形がうまくはまってくれました。
すべては、心は、不確かで揺らぐからこそ愛おしいのです。
6.羊
ざくざくと針刺し針刺し羊から姿を変えて月の輪熊へ
これは趣味のひとつである羊毛フェルトのことです。作例を見たけど月の輪熊はなかったです。それどころか例にならない熊しかいなかったです。
くまスウィーツ…。
羊毛フェルトという手芸は、ふわっふわの羊毛にギザギザ形状のニードルという専用の針をぶすぶすざくざく刺して固く整形していくという物騒なものちくちくと刺し固めて形を作っていく自由でかわいらしいものです。羊毛フェルトを教えてくださった先生の言い方に直しました。
狼にすると普通だし、よくモチーフになる熊だけでもそのままなのでツキノワグマさんにしました。
7.線
線を消し混ざり合った痕跡はシーツに連なる皺の山脈
ド直球の艶歌ですね。情事にシーツはなんでこんなに似合うんでしょうね。掛け布団して事に及ぶことが少ないからですかね。皺の山脈は線のことなので、消して当たらな線を生んだということですね。こういう歌は淡々と振り返らないと恥ずかしくなりますからね、さらっといきましょうね。
8.バク
「バクってさ、バクバク夢を食べるからバクって名前じゃないの」と君が
難産でした。なので他の方がさらりと詠んでいたり愛のバクダンやバク転にしているのを見て「その手があったか」と唸りました。
文字数の関係で最後放り投げましたが、何だかんだで気に入ってます。とりあえず言いたいことは言って派手にぶん投げたので、あとはお楽しみくださいという歌です。
9.年度末
電卓を叩く手走れ伝票の山越えそのままシュレッダーまで
実はわたしの中では3月が年度末という印象が薄いです。今まで12月が年度末の会社に勤めていて繁忙期に死にそうになりながら決算業務してましたが、その頃のことを少し思い出しました。書類をシュレッダーにかけるのって気持ちよくて好きです。嫌な気持ちも全部粉砕されてしまえ、と思いながら書類を食べさせてます。
10.信号
青信号渡らず眺めるシルエット 永久(とわ)に進めぬ彼の帽子
実は信号ではなく歩行者用道路の標識を見て思いついた歌です。標識の人も信号の人も帽子をかぶって歩いてるのに、ここから進むことはできないんだなと気づいてしまったのです。それにしても何で彼らって帽子をかぶってるんでしょうね。「渡らず」が何にかかっているのかを考えるとちょっと解釈が広がるかな、と思ってます。
☆ * ☆ * ☆
正直に言うと、振り返りはある意味野暮なことだとは思っています。短歌って、解釈の余白が多い文学なんですよね。だから、自由に詠むように自由に読んでもらえばそれでよくて。
それでも、つらつらと感想や振り返りを書き残してるのは、短歌を「詠む」だけでなく「読む」ことも楽しんでもらえたらなー、という気持ちからです。狙い通りに読めたときはうれしい、違う解釈を喜んでもらえたらうれしい、思いもよらない解釈をしてもらえたらうれしい。そうした解釈の幅を広げるのにはいいよね、と思ってます。あと、やっぱり書いてて楽しいんですよね。
いろんな解釈をフィードバックすることでモチベーションのサイクルが生まれるんじゃないかなーと考えています。
なので、作品だけでなく、振り返りや他の方の感想記事も楽しく読んでます。「おお、そう読んだか!」「おお、そんな意図が!」って心のなかでつぶやきながら読む時間は至福です。
ではでは、次回の『短歌の目』もしくは月末の『のべらっくす』でお会いしましょう。
*今月の『短歌の目』関連
短歌の目 第1回:3月 - さらさら録
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