短歌の目 第3回:5月 振り返り
今月も自分の歌を振り返り台無しにするのもまた楽しみで
自分の意図と離れて読まれるのもまた三十一文字の面白みですよね、ということでさくさくっと振り返ります。
* ☆ * ☆ *
1. うぐいす
ささくれた縁側に頬寄せる午後 うぐいすあんのパンの白さよ
亡き祖母の家での、祖母との思い出。縁側って、あたたかいのにぺたんと寝転ぶと程よくひんやりしていて好きです。祖母が食べていたおかげで、うぐいすあんパンの存在を知りました。
2. 窓
今すぐに窓蹴破ってやる 出てくから お鍋の中身は適当に食べて
もしもわたしが結婚してて分譲マンションに暮らし、夕飯時に夫と喧嘩したらたぶんこうなります。
作った食事はもったないないので食べてください。
3. 並ぶ
畳まれた傘はつぼみ 雨の日に咲くのを夢見て立てられ並ぶ
雨の日に傘の花が街中に咲いて、それがゆらゆら動くのが好きです。開いた状態の傘が花なら、畳まれた状態はつぼみだなぁ、と。
4. 水
大切な言葉を書くなら水性のインクで。 滲んで読めなくなるから。
読点の使い方は川添さん(id:kkzy9)にインスパイアされています。
昔、ハイテックCというカラフルな水性細字ボールペンが流行った頃にもらった色紙があるのですが、滲んでしまったんですね。読めなくなったのですが、捨てられずにいます。今は万年筆ユーザなので、滲ませ率が上がりました。
5. 海
海になる タオルケットを身にまとい
『脾臓』は最初『鼓動』でした。だけど、なくても構わないとされる脾臓の存在を思い出して、たまには陽の当たる場所に出してもいいかなと思った次第。これからの時期はタオルケットにくるまって生きていきます。冬場は毛布。
6. かめ
最近じゃ「やっとかめ」とか言わんがね えっ何?聞こえん 取材にならんて?
『かめ』と見て、亀・甕の次に出てきたのが『やっとかめ』でした。
漢字では『八十日目』。『久しぶり』という意味の名古屋弁だけど、ほっとんど聞いたことがない。『やっとかめ探偵団』くらい?言わないけど、『やっとかめ』のなんか間延びした感じが好き。
7. 発情
一番戸惑ったお題。なんというか、「艶歌を読め!」とお題を出された方から強いられているような気がして、でも艶歌は強いられて詠むものではないよね、と思ってこうなりました。お題を出された方を非難しているのではなく、単にお題を出された方とわたしの感性やスタンスの相違です。
そうしたお題に出くわすのも題詠の面白さです。
開始のサイレンは春と夏に西宮市で『あああああああああ』って鳴るあれです。
8. こい
濃い色の文字で恋よこいと乞う 未必の故意は鯉のぼりの日に
今回のうりうり系短歌*1枠。
『鯉の季節に』と結びかけて、『鯉の季節』は野球クラスタ用語なのではないかと思い日付を指定しました。初句から結句まですべて「こい」が入ってます。いろいろな意味で狂ってます。
9. 茜さす
茜さす紫野どこ標野どこ 野守もおらずに振る袖もなく
茜さす、と見て万葉を代表する歌人・額田王の『茜さす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る』が真っ先に出てきました。額田王は初め大海人皇子(後の天武天皇)と結婚するのですが、その後大海人皇子の兄である天智天皇と結婚するんですね。で、この歌は、蒲生野で行われた薬狩の後の宴で詠まれた歌なんです。『茜色の紫野を標野を行き来しているあなたがわたしに向かって手を振ってる。そんなに袖を振ったら野守に見られちゃうわ』と。
そしてこの相聞歌に応えたのが天智天皇…ではなく大海人皇子で、『紫草の匂える妹を憎くあらば人妻ゆえに我恋ひめやも』と詠んじゃうんですね。『紫草の似合う美しいあなたを憎いと思うなら、なぜ愛してはならぬ人妻のあなたに恋い焦がれてしまうんだろう』と。
宴の席とはいえ、元夫婦が相聞歌を交わしたわけです。わーお。
その背景を考えると、この本歌取りは額田王激怒不可避です。金なし恋人なしの寂しい人の歌にしてしまってごめんなさい額田。でもわたし嘘はつけない。嘘だけど。
10. 虹
虹は神様と約束した印。だから、あなたと最後の約束。
「虹は神様と約束した印」という話は、高校3年のときの学習合宿で担任の先生が話してくれたこと。なのでどこの神様かもわからないんだけど、それが妙に残ってるんです。
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歌によって振り返りの熱量が違ったりしますが、振り返りの熱量と想いは比例しないものです。
第3回短歌の目5月皆さまの感想・ふりかえりです - はてな題詠「短歌の目」
併せて読むと、振り返りもいろんなスタイルがあって面白いなぁと思うのです。
*1:いまだなつきさん(id:imada-natsuki)命名。詳しくは こちらの『5.摘』 を参照されたし