かんたん短歌を作ってみますの?-枡野浩一『かんたん短歌の作り方』
- 作者: 枡野浩一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2014/07/11
- メディア: 文庫
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かんたん短歌とは枡野浩一氏が提唱する短歌のスタイルで、
- あくまで五七五七七で!
- いつもの言葉づかいで!
- 嘘をついてでも面白く!
(単行本まえがきより)
を念頭に置いて作られた短歌。簡単な言葉だけで作られているのに、読むと思わず感嘆してしまうような短歌*2が「かんたん短歌」です。ちなみに「かんたん短歌」の名付け親はC級コピーライター糸井重里氏。キューティ・コミック連載*3ということもあり、軽い文体と「かんたん短歌」という言葉につられて読んでいくと、ばっさばっさと返り討ちに遭い何度も吐血し死ぬところだった。
印象的なアドバイスを引用してみよう。抜き出したことにまるっと同意しているわけではないし、自分にもざっくざっく刺さって出血多量になりながら抜き出すけど。
一度読んだだけで意味がすぐわかり、くり返し読んでも面白い、そんな短歌を目指してください。(p.38)
短歌は内容だけでなく、言葉の微妙な言いまわしが命なのです。(p.46)
「だれもがその状況をうまく思い浮かべられるような、しっくりくる言葉の並べ方」を探すのは、あたりまえの表現作法なのです。(p.47)
自分でも覚えてないような、勢いで安易につくった短歌は、教祖*4のたましいにも読者のハートにも、絶対届かないですよ。(p.70)
教祖マスノは昔風の言葉づかい(文語調)でつくる短歌は手ぬきだと考えています。(p.71)
改行や一文字あきなどの「雰囲気」に頼らず書いてみて。(p.84)
短歌以外の形式で表現したほうが面白くなる内容のものは、短歌にしては駄目、です。(中略)短歌は、ある内容を短歌にすることで一番その内容が伝わる場合のみ使うべき形式、と教祖は考えます。(p.90)
せっかく人々の心に侵入しやすい七五調のリズムがあるんだから、それを利用したほうがおトクだと教祖は考えます。
句読点をつけると、どんな退屈な言葉だって一見意味ありげに見えちゃうんです。それは危険なワナ。記号なんか全部捨てても通用するような強い言葉を構築しましょう。(p.92)
つかい慣れた口語(日常語)でさえ自分の気持を的確に表現するのは難しいのに、勉強しなければ使えない大昔の言葉で、いい短歌を作ることなんて不可能だからです。*5(p.106)
日常語で勝負できるほど内容のある短歌をつくれないから、雰囲気だけ和歌っぽくして、何かを表現したような気分になっているだけです。(p.107)
ギミック(特殊効果)で誤魔化してしまえば、目先の新鮮さを演出することなど簡単にできるのですが、それでは短歌は上達しません。(中略)ただでさえ七五調のリズムという効果に頼っているわけですから、それ以外のことはできるだけストイックにすべきだ、というのが教祖の見解です。
あらゆるギミックを排除し、わかりやすい普通の言葉だけを使って、それでもなお読み手の心を立ち止まらせてしまう歌。(p.127)
共感を呼ぶ題材を見つけただけで終わってしまっている、というのが世間によくある「朝日歌壇」的駄目短歌なんです。(p.136)
ひとりよがりのセックスもあるように、まわりの人を楽しませるオナニーもあるはず(p.185)
顔に似合わないようなかっこいい作品をつくっても、その作品には説得力がないんだ(p.192)
すべての人に好かれようと思って作った短歌は、だれにも好かれません。(p.193)
短歌に限らず文章は、お互いに意見の合う人にだけ読んでもらえばいいというものではありません。むしろ、自分とは相いれない、大嫌いな人にこそ読んでもらうべきなんです。(p.194)
あなたの短歌は、だれに向かって言葉を届けようとしていますか?その「だれか」と、あなたの立っている位置は、どれくらい離れていますか?(p.201)
短歌をつくる仲間たちにいつも囲まれていると、その仲間たちの「読解力」があまりにも優れているために、つまらない短歌をつくっても「面白い」とほめられてしまったりするのではないか(p.228)
うううううう、痛い。とっても痛い。入門書でありながら、ある程度つくってきた人にもぐさぐさと刺さる。かんたん短歌という言葉とは裏腹にストイックで厳しい世界、それがかんたん短歌。だけど、わたしがこのかんたん短歌のアドバイスをある程度信頼できると判断しているのは、五七五七七の基本に忠実であること*6、しっかりしたポリシーに基づいていること、ここから何人もの歌人が出てるから。
佐藤真由美、加藤千恵、天野慶、脇川飛鳥、向井ちはる、柳澤真実(敬称略)という歌人を輩出したのがこのかんたん短歌なのである。前の3名はどこかで名前を見聞きしたことがある人も多いだろう。この本の最後には何名かの信者の作品集がついていて、2014年に文庫化された際に作品集2014として佐藤真由美、加藤千恵、天野慶の各氏の作品と枡野浩一へのエッセイが収められている。この作品集を読むことで、かんたん短歌のエッセンスは掴めるんじゃないかな。ちなみに、『今すぐにキャラメルコーン買ってきて そうじゃなければ妻と別れて』(本書に収録)という歌が大人気の佐藤真由美さんの最初に採用された歌は『つまらないセックスをした翌月に生理が来たら「おめでたですね!」』というパンチの効いたものだった。
と、長々と書いてきたら単行本出版時にほぼ日に掲載された書評があったので、これを読んでもらったほうが早いかもしれない。
https://www.1101.com/editor/2000-12-21.html*7
ほぼ日の書評にもあるけど、単行本の表紙は南Q太が描いている。
- 作者: 枡野浩一
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2000/12
- メディア: 単行本
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- 作者: 枡野浩一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/07/15
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- 作者: 枡野浩一
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2005/12
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ということで、今月の『短歌の目』はこの本の影響を受けたものになっています。baumkuchen.hatenablog.jp
この歌とかもそうですね。
たましいが傷つき心細いときこぼれた言葉はわたしを救うか #jtanka #短歌 #tanka
— ɐsɐɹɐsıɓɐu'ıɓǝu (@ccmnt_) 2015, 9月 7
わたしが今気になっているのは、自分の顔に似合ったものだろうか?ということ。中国製マトリョーシカのような人間*8が詠んでいいものなんだろうか。実際のわたしを知っている人、その辺どうですか。
普段使いの言葉でするりと詠めるようになりたい人には、大きなヒントになる本じゃないかな。特に、『短歌の目』参加者におすすめ。
*1:現在洞穴の修復中(推測)につきリンクを貼れませんが
*2:文庫本収録の宇都宮敦による評論『その先の「かんたん短歌」』では<いま使われている書き言葉で書かれた切れ目のない一文に見える57577ぴったりの短歌>と特徴付けられている
*3:先日廃刊が発表されたファッション誌『CUTiE』はフィーヤン系作家の多い月刊コミック誌も出していた。キューコミは『かんたん短歌の作り方』と『ハチミツとクローバー』を生んだことで3年しか発行されていなかったものの、自分の中では存在感のある漫画雑誌
*4:枡野浩一氏はこの本の中で『マスノ短歌教』教祖という体をとっている
*5:文語で短歌をつくることに対して
*6:時にこの重みが苦しくなることもあるけど