syrup16g『kranke』最終日 患者と明日
昨日、syrup16gのツアー『Kranke』最終日に行ってきました。baumkuchen.hatenablog.jp
初日に書いたレポではネタバレするから書けなかったことも書ける!ということで心置きなく書いていきます。
前回の『再発』のときは、こちらがsyrup16gの3人を見守っている感がとても強かったんだけど、今回の『Kranke』はこちらを見守ってくれている感が強くて。まさか、syrup16gのライブのあとに、あんなに多幸感に包まれるなんて思ってなかった。
バンドとしてのサウンドの強さは『再発』よりずっと強固なものになっていて、不安定な五十嵐を安定した中畑とキタダが支えることで独特のグルーヴ感を生みホールを包んでいた。前半のミドルナンバーでぐっと引き込んで、後半で三者三様にほとばしるように演奏するさまはかっこいいの言葉に尽きる。syrup16gのパブリックイメージは「鬱ロック」なんだろうけど、その称号をも血肉に変えた力強く逞しく最高にかっこいいロックバンドがステージに立っていた。
再結成後、ライブを重ねるごとに3人がステージを楽しんでいる様子が伝わってくるのがとてもうれしい。「また解散したら」「また音信が途絶えたら」と怯えることなく、五十嵐の発した「ライブ楽しい」や「また来てね」の言葉を素直に信じることができた。syrup16gが続いていくこと、それを信じ待てることがどれほど幸せなことか。こんな日が来るなんて、誰が想像していただろう。かつて「明日は来ない」と言った五十嵐が、明日の存在を信じさせてくれるなんて、ね。
『再発』のときとはまた違った感情で、絶望と諦めをくぐり抜けた果てで明日を前向きに迎えられる。そんなライブだった。
セットリストと演出
曲順 | 名古屋(初日 | 東京(最終日) |
---|---|---|
0 | songline | songline |
1 | 冷たい掌 | 冷たい掌 |
2 | 生きているよりマシさ | 生きているよりマシさ |
3 | To be honor | To be honor |
4 | 天才 | HELPLESS |
5 | HELPLESS | Stop brain |
6 | My Song | My Song |
7 | 明日を落としても | 明日を落としても |
8 | 正常 | 正常 |
9 | Everything is wonderful | 負け犬 |
10 | 吐く血 | 吐く血 |
11 | Share the light | Share the light |
12 | Stop brain | 天才 |
13 | 真空 | 真空 |
14 | パープルムカデ | パープルムカデ |
15 | vampire's store*1 | 神のカルマ |
16 | Thank you | Thank you |
en1 | 神のカルマ | vampire's store*2 |
en2 | 落堕 | 落堕 |
w-en1*3 | 翌日 | coup d'Etat |
w-en2 | - | 空をなくす |
w-en3 | - | Reborn |
名古屋と東京で全然違っていたけど、東京の曲順のほうがずっとよかった!
『冷たい掌』『生きマシ』『To be honor』と再結成後の曲を演った後に、まさかの『HELPLESS』!!!!!!名古屋で思わず崩れ落ちた。
昨日のセトリのプレイリスト聴いてるけど昨日のアレンジが素晴らしすぎてアルバム音源がつらい 声に艶や張りもないしグルーヴ感は皆無だし、それだけ昨日が素晴らしかった(そう、五十嵐の声が全盛期の艶のある声に戻ってたのでそれだけでもかなりの価値がある。再発よりバンド感強くなってたし)
— ねぎ*なぎさらさ (@ccmnt_) June 23, 2015
このツイートが指してるのは『HELPLESS』。『再発』の『ニセモノ』といい、少しずつアルバム『syrup16g』の曲も演ってくれるとうれしい。今のsyrup16gで、あのアルバムを聴きたい。
『生きマシ』は再結成後の曲だけど、『再発』のときから比べて「育ったなぁ」と思った。2曲目に持ってこれるくらい、代表曲の1つと言えるくらい独り立ちしたんじゃないかな。『Stop brain』は好きな曲なんだけど今の自分に重ねて聴くには耳が痛すぎた。いろんな意味でキラーチューンだ。がっつりえぐられる。
その流れからの『My Song』~『Everything is wonderful』/『負け犬』の流れはとても美しかった。『My song』の切なくも力強い美しさにぐっと胸が詰まったところで、サビの低音が美しい『正常』に流れ込み…というのは反則すぎると思った。名古屋では『明日を落としても』で「明日が来るのにも慣れて」って歌ってた。そういえば『生きマシ』でも「死んでいるほうがマシさ 生きているほうがマシさ」って歌ってて何だかうれしかった。曲として成り立たないからダメなんだけどね。『明日を落としても』、名古屋ではありとあらゆるものを落としまくる映像が背後で流れてたんだけど、東京ではなくなってた。どこでなくなったんだろう。その代わり、東京最終日は「あ… 明日を落としても~」と入るタイミングが間違ってて、「そうだよね落としたくないよね」って思った。『Everything is wonderful』は「奇妙な黄色い糸」という歌いだしに合わせて黄色い照明を糸のように客席にぴんと張ってたのがきれいだった。『負け犬』のほうのセトリも聴けてよかった、今の自分には耳が痛いけど。
そして『吐く血』!これを演るとはね!なんというか、解禁って感じだった。患者ツアーにふさわしい。そして、底抜けに明るいポップソングのように演奏されていたのが印象的だった。奇妙なまでにポップだった。『吐く血』をライブでやったのは12年ぶりらしいですよ…なんということでしょう。名古屋市公会堂からの帰り道、鶴舞からJRの2番線から電車に乗って帰ったけど、思わず写真をツイートしようとして「ネタバレになる!」と思って控えたのは今だから言える話。
『Share the light』はとにかくかっこよかった。たいこもかっこいいし、メロディラインをなぞるベースもかっこいいし。この曲も育ったなぁと思った。この曲で幕を開けた『再発』ツアーを思い出してちょっとじんとして、そのときよりソリッドな音にしびれた。鳥獣戯画制作キットを思い出してしまうんだけど。この曲はホール公演なのがもどかしかったな。
ライブに行ったことのない私が想像したsyrup16gのライブ #鳥獣戯画制作キット pic.twitter.com/XJW6DsIlsg
— ひつじ(鼻炎) (@sheep16g_baa) June 30, 2015
患者ツアーで『真空』を演ったことによりわたしの中での「あの曲は採血のときに管に血が吹き出していく様子のことだ」という自説がより説得力を増したところで、おなじみの『パープルムカデ』から『神カル』でわーーーーっと盛り上がったところで、『Thank you』が強く優しく響く。たいこが「あーきーらーめーろー」というコーラスを入れていたのがなんだか面白くて愛おしかった。2階席一番後ろだったのに、気づいたら跳びまくって吼えてホールツアーとは思えないほど暑くて汗をかいていた。わたしは地蔵にはなれないや。
アンコール。
「レンコン」とは手術室にある無影灯を模した照明のこと。「病名はないが患者」というフレーズが出てくる『vampire's store』に合わせて降りてきてたんだけど、もしかしてレンコン無影灯風照明を吊るしたいがためにホールツアーだったんじゃないかなって思わせるくらい楽しい演出だった。名古屋初日のレポで、
syrup16gは青春であり、中毒患者を生むものであり、彼ら自身もまた患者であるのだ。
これについて詳しく言及するとネタバレになるので、今日はここまでに留める。
と書いたのはこのレンコン無影灯風照明が照らしている場所のこと。名古屋のとき、わたしの席からは上記イラストのように五十嵐(とたいこ)を照らしているように見えたんだけど、「レンコン無影灯風照明はファンを照らしていた」というツイートを見たこともあって「あれ、じゃやっぱり患者はファンのことなのかな…?いや東京で確かめなきゃ」と思ってたのだ。そしたらやっぱり五十嵐(とたいこ)を照らしてたので、患者とは五十嵐のことなんだなぁと再確認した次第。それにしてもツアーTである患者Tを拒否してひとりだけ特別に「医者T」を着てるマキリンずるい(名古屋ではKrankeTシャツだった。あとふたりは患者T)。「患者は嫌なんだって」「スーパードクター」と言われながら話を振られたマキリンが「お大事に~」と言ってマキリンがシャベッタアァァァァァァァァと思ってたらすかさず「滑ってたね」と突っ込みが入って、そんなやり取りも愛おしくてうれしかった。
お大事にー。
http://t.co/9PJ0UP1O7G
— キタダマキ (@ktdmaki) July 9, 2015
『落堕』はやっぱりとってもかっこよくて、たまたま風邪を引いていた友人とわたしは「明日また熱出そう!」と後から言って笑ってた。そういえば、名古屋では「しょーがない!」って言ってた部分が東京では形になってて、先述したように五十嵐の不安定感とリズム隊の安定感をもってひとつの完成形に達してた。巧拙を超えたレベルで、バンドとして凄みを感じるほどに成長していた。
Wアンコ、名古屋では『翌日』を聴いてぼろぼろと泣いた。このセットリストの大ラスで聴く『翌日』は、今までとまったく違って詞そのものの意味で聴こえたのだ。そして、東京の『coup d'Etat』からの『ソラナックス』はやっぱりかっこよくてライブ映えするわぁと思っていたところに大ラスの『Reborn』をぶち込まれたんだけど、あんなに強く前向きにあたたかく聴こえたのは初めてだった。様々な感情を揺さぶり続けたライブだったけど、『Reborn』がすべてを優しく包み込んで明日への背中を押してくれた、そんなきれいな終わり方だった。客電がついたままの『Reborn』は、『To be honor』の「泣いてるひとの傍で寄り添ってたい」というフレーズを表したかのように、近くて同じところに立っているみたいだった。
再結成後のsyrup16gのCDを聴いて、「こんなのsyrupじゃない」という人たちがいることは知っているし、わたしも当初違和感がなかったと言ったら嘘になる。だけど、こうして新旧織り交ぜたセットリストの中で聴くとわかる。再結成後の曲も、“syrup16g”という同じ文脈の上にあるということが。
syrup16gはcoup d'Etatという同じアルバムの中で「最終回のドラマでボロボロに泣いた(遊体離脱)」と歌う傍ら「テレビをつけたら何も感じなくなってしまったよ(汚れたいだけ)」と歌う。それは矛盾や整合性のなさとも捉えられる。しかし人間はそもそも矛盾を孕んだ生き物なのだ。
— ねぎはないが患者 (@ccmnt_) 2015, 4月 19
今回のセットリストだって、矛盾してる曲たちがある。だけどそれも同じ“syrup16g”という文脈の上にあるし、その文脈の上では何ら矛盾はないのだ。だからわたしはsyrup16gを、そして人間を愛するのだ。
患者Tシャツ、物騒なのと裾が長いのとで襟ぐり広げて裾にシャーリング入れたけど、やっぱり患者は患者だった。だけど患者は患者らしく、「また来てね」の言葉を胸に、明日を落とすことなく諦めの悪い青春を迷い汚れて傷ついて生まれ変わっていくのだ。
syrup16gを「待つ」ことの何と幸せなことか―― NHKホール公演初日を振り返る (2015/07/09)| 邦楽 ニュース | RO69(アールオーロック) - ロッキング・オンの音楽情報サイトなぜレンコン写真がないのだ/再発の時の緊張して見守る感じはまったくなく、むしろ見守って背中を押してもらえた、多幸感に包まれたライブ。この稀有なバンドを待つことが許されるって本当に幸福なことだ
2015/07/10 07:23
「また来てね」syrup16g、再会誓った全国ホールツアー千秋楽 - 音楽ナタリーレンコン写真はないのか!でも医者Tマキリン見れたのうれしいぞ!また行くよ!愛してる!
2015/07/10 23:15