さらさら録

日々のさらさらの記録

【第4回】短編小説の集いの感想と、『ハピネスウィーツ』裏話

ハッピーバレンタイン!
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チョコはあげる派よりもらう派の人間だったりします。

そうか、バレンタインだから前回の「のべらっくす」のテーマはお菓子だったのか…と他の小説を読みながら気づいた世俗に疎い者です。
今回はちゃんと感想を書いてみたいなと思いました。少しずつ感想を書くこともしていきたいなー、と。勉強になりますしね。お見苦しい点はあると思いますがご容赦を。
そして拙作「ハピネスウィーツ」については後半でちょっとした制作秘話を書きます。


☆ * ☆ * ☆



甘党 - OK 余裕

冒頭の描写で情景がばばばーっと頭に浮かんできました。深夜にたまたま眠れなくてテレビをザッピングしていたら単発でやってたローカル局の15分ドラマを見入ってしまったような感じ。いかにも大学生向けのワンルーム1部屋だけでいくつかの定点カメラの映像をつなぎ合わせたような。つまり個人的にとってもエモかったです。
大学4年間で方言が抜け切らなかったマー坊がとても好き。



粉 ― 【第4回】短編小説の集い 投稿作品 - ごくまトリックス

これを読んでから、スーパーに行くたびにはったい粉を買おう買おうと思って忘れるわたしです。一度はったい粉を買ってこうせんにして食べたのですが、シンプルながら滋味深い味でした。悟の祖母が湯呑に作り、悟の姉がマグカップに作るという対比が最後のヨーカ堂の破壊力へつながっているように見えました。
しみじみと、こうせんのような味わいのある物語でした。



甘い誘惑 -第4回短編小説のつどい- - このはなブログ

自分の子ども時代が璃子ちゃんに重なってううううっ…と胸が痛くなりました。他の家庭と自分の家庭との違いって子ども心に残酷なものなのですが、その痛みが蘇りました。消しゴム交換やでこぼこシール交換、わたしもやったなぁ。璃子ちゃんと同じようにほとんど買ってもらえなかったけど。
璃子ちゃんのこの後を想像すると、タイトルとは真逆に心に苦味が広がるのです。



【創作】ごはんの時間−第4回短編小説の集い - nerumae

ブコメで「ナイフよりも鋭利でガラスより脆い少女たち」と書いたのですが、女子高生特有のある種の傲慢さと脆さと欲望がよく出ていて好きです。ぽるかはカスミを崇拝し畏れていたけれど、カスミはぽるかをどう思っていたんだろう、と思うと妄想が止まりません。
エログロ描写より、少女たちの残虐さのほうがぞっとしました。そう、少女たち。カスミだけでなく、ぽるかも。
カスミが食べているのがシリアルバーではなくキャンディバーなのがいい。



夢の一日 - 美の特攻隊

ウサギとリスが丸太に座っている、ラムネ…ときたら名古屋人なのであれを連想してしまいました。
ふわふわと現実感のない、まさに夢のようなお話でした。「わたし」の語る内容と「絵本のストーリーの境界線が曖昧で、そこが微睡んでいるときのようで。
言葉のチョイスが大正期に翻訳された海外の児童文学のようだな、と思いました。「まばたきが物憂いことを覚えた。」というフレーズが好きです。



『ざらざら』 - バンビのあくび

駄菓子屋さん…!幼いころを思い出させます。『しまだ』じゃないけど、どうして駄菓子屋さんって店主の苗字が店の名前になってたんでしょうね(うちのあたりだけかな)。
糸引き飴がまた絶妙に懐かしい。糸にたどり着くまで噛まずに舐めるのが大変だったな。
美奈子とのエピソードを挟んで、宏樹との親子の話につながっていくけれど、直人・宏樹親子に母親の姿がないという構成は妄想をかき立ててくれます。
「ざらざら」というタイトルも素敵。



『甘やかな蜘蛛の糸』 - うつ病だけど、生きてます

おんなのこはお菓子みたい、という比喩が美しく哀しいです。「ごはんの時間」もですが、お菓子と、性的に成熟し切る寸前の危うい魅力を持った――でも精神的にはまだまだ成熟していないアンバランスな美しい女子高生は親和性が高いのでしょうか。
月島に対する拓也の対応が理性的で紳士的で、女性から見た理想の存在だな、と思いました。そりゃ、月島もちょっかいかけたくなるよな。決して自分を埋めるのは誠実さではないとわかっていても。
お菓子のようなおんなのこのお話なのに、読後残ったのはまだ青い柑橘類のにおいでした。



【のべらっくす】お腹に落し物 - 野良猫の午後

由美に年齢の近い階段腹の持ち主としては勇気が出ました。笑
最後、タイトルの「落し物」のダブルミーニングに気づいて、思わず「あっ!」と声が出ました。うまいです。
お菓子をプレイの一つとして取り入れる人がいるのは知っているのですが、直接的な性描写を書かずに上品なエロティックの世界を創り上げられていて垂らされたチョコレートのように濃密でした。
このふたりはプレイの中ですべて完結して生きているようで、タイトルの意味も併せてエロティックな倒錯感を味わいました。



ルイスのチョコレート - 金田んち

剛みたいな営業職いるいる!と真っ先に思いました。人懐っこさと口のうまさだけでどうにかなって、仕事で迷惑かけられても憎めないタイプの営業。そんな剛の姿があるからこそ、完璧人間(に見える)裕のやらかしの大きさが引き立ってます。しかも、剛に引きずられるような間違いを。
近藤さんもたぶん、ミスらしいミスをしない裕を普段見てたからあんなことしたんだろうなぁ、と思うのです。
このお話、バレンタイン向けショートフィルムにしたら面白そう。

余談ですが、ルイスのチョコと聞いて真っ先に中日のブルペン捕手兼通訳のルイス君を思い出し、その後なぜかロイズリンツが混ざってしばし混乱しました。いやそれ国が違うから…。チョコポテチを出してるのがロイズですね。ね。



小説: スフレ・オ・ショコラ(チョコレートのスフレ) - okinot’s blog

手を動かしているときって、無心になれるんですよね。スフレを作りたいと思いました。すっごく難しいのは知っているのですが。そう、スフレという選択が絶妙でした。手間もかかるしコツもいるのに、おいしいのはほんの最初だけ。
父との思い出をなぞりながらスフレを作る前半が、後半になればなるほどぴりりと効いてきます。結末はこれできれいにまとまっているんじゃないでしょうか。二人の不穏な空気と、もこもこふわりと膨らんでいくスフレのにおいが残りました。
卵だけ具体的な分量が書かれているのに、なぜかどきりとしました。



のべらっくす【第4回】短編小説の集い ぼくの大好きなビスケット - ファンタジー頭へようこそ!

タイトルの無邪気さとは裏腹に、見過ごしてはいけないお話でした。
視点の切り替わりが鮮やかで、その分光くんの痛みと「自分の思い描く完璧」の中で生きる恵子の姿が浮かんできました。
そして勝手にそこまで完璧を追求する恵子のその後が気になるのです…光くんは救われたけど、じゃ恵子は?と思うといろいろと考えさせられました。
一筋縄ではいかないテーマでありながらきれいにまとまっていて、胸に迫る問題提起がありました。



【第四回】短編小説の集いに参加します。 - 池波正太郎をめざして

冬の動物園って何であんなに叙情的なんでしょうね。暑くて動物たちがバテてる夏の動物園より、寒くて凍えてる冬の動物園のほうがぐっときます。
輪郭を丁寧に描くことで心情をうまく浮かび上がらせているなぁ、と思いました。トラとゾウに対する語り手である「僕」の目線が好きです。巻き込まれている「僕」はどの動物に自分を重ねているのだろう、と思いながら読みました。
連作短編ということで、今後のシホが気になります。

個人的な話なんですが、去年東京に行ったとき上野動物園に行ったんですね。午前中しか時間がなかったので、背中を向けて寝ている愛想のないパンダとダイナミックなシロクマと超かっこいいハシビロコウとハダカデバネズミくらいしか見れなかったんですが、「上野動物園行きたい…!」ってなりました。もちろんパンダ焼きも買わなきゃ。



思い出したら噛み殺して ~短編小説の集い宣伝~ - 無要の葉

煙草をなかなかやめられないのは口唇欲求が得られなくなるから、と聞いたことがあります。彼女がガムを噛み続けているのは、その口唇欲求を満たすためなんだろうなと想像しました。
口唇期に愛情を得られずガムを噛み続け救いを求める少女と、夜の街に闇があるように錯覚して彷徨うライター。なんだか、こうして彼女を語っている男のほうが哀しいと思うのはわたしだけでしょうか。でたらめな歌と泣きじゃくる彼女がかわいく切なかったです。

これも蛇足ですが、「夜の街に繰り出す孤独な少女を取材する社会派ルポライター」的なおっさんに声をかけられたことがあります。大学生の頃だし帰り道だし垢抜けない黒髪の野暮ったい感じだったのですが、ヤッてやろうという下心が透けて見えて逃げました。今はもうない名駅松坂屋の前で。


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今回、お菓子ということで子どもが出てくることは想定していましたが、自分の作品を含めティーンエイジャーの少女が出てくる作品が多かったのが面白かったです。「女子高生」というアイコンは創作においてある程度の意味を背負っていると思うのですが、お菓子とこれほど親和性が高いとは。
お菓子というテーマから様々なお話が広がり、またお菓子の選び方や織り込み方など、存分に楽しませていただきました。
ありがとうございました。


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ハピネスウィーツ - さらさら録

これなんですが、「お菓子がテーマでSF!?」という感想をいただきました。
実はこれにはインスパイア元があるのです。指摘されるかなーと思ってたらされなかったので、自ら言いますが、Perfumeの近未来三部作の2作め「コンピューターシティ」が根幹にあります。


[MV] Perfume「コンピューターシティ」 - YouTube
コンピューターシティ Perfume - 歌詞タイム

何でこの曲なのかというと、元々書いていたものをボツにしたときに、頭の中に流れてきたんですね。「あー どうしてー お菓子のー コンピューターシティー」って。
元の歌詞は

あー どうして おか(しい)の
コンピューターシティ

なのに。
ずっとその空耳が鳴り止まないので、「よしじゃあお菓子のコンピューターシティで書くわ!」と書いた結果が近未来SFチックなお話になったのです。そうなんです、空耳から生まれたお話なんですよ。
よく読むと端々に歌詞やPerfumeクラスタならわかるワードがひっそり織り込まれています。
指摘されなかったということはこれ単体でも成り立っているということなので、個人的にはとても満足しています。単体としても、「コンピューターシティ」のひとつの解釈としても読めるお話になったんじゃないかな、って。Perfumeクラスタのみなさまどうでしょう…。

書くにあたって、冒頭がするっと出てきて、あとはばーっと赴くままに書いて、寝かして直して公開しました。締め切りまで間がなかったので、通勤途中や仕事の昼休みにも書いていました。ナオの記憶と記憶の合間に現れるハスミがお菓子を食べているシーンなんですが、何を食べさせるのか想像するのは楽しくもつらい作業でした(お腹的に)。「夜中に読むにはつらかった」と言われてうれしかったです。
あと、わたしの中ではひたすらナオ目線で書いていたのですが、ハスミのパーソナリティが伝わってきたという感想をいただきました。徹底したナオ目線と三人称が逆にハスミを浮かび上がらせたのかな、と考えています。

一番難産だったのはタイトルでした。何しろ、「コンピューターシティ(仮)」でずっと書いていたのです。この通り。
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お菓子を食べて幸せそうなハスミの姿を書きながらラストをどうしようか考えていたところで、「幸せってハピネスだよね」とふと思ったところからタイトルとラストが決まりました。だいたいタイトル先行で書くので、このパターンは初めてで悩みました。

今回のお話はおかげさまでご好評をいただけてとてもうれしかったです。
SFにはあまり明るくないのですが、それでも設定を考えて書いていくのはとても楽しかったです。
素敵な機会をありがとうございました。
また、読んでくださった方・感想を寄せてくださった方にも。ありがとうございました。

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