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さらさら録

日々のさらさらの記録

短歌がモチーフの短編漫画、『積極』(谷川史子)

短歌を詠むことを再開してから、どうしても読み返したくなって読んだ漫画がある。

積極―愛のうた― (クイーンズコミックスDIGITAL)

積極―愛のうた― (クイーンズコミックスDIGITAL)

谷川史子さんの『積極』。
たまたまハチクロの付録目当てで買った雑誌『コーラス』に載っていて、りぼん時代から知ってる谷川史子さんだーと読んでぼろっぼろと泣いた。もうすぐ就職する女子大生と定年間近の国文学ゼミの老教授と女子大生が同棲している彼氏とのお話なんだけど、ほろ苦くて青くて酸っぱくてやさしい。
それもそのはず、このお話はある短歌がモチーフとなっているのだ。

青林檎与へしことを唯一の積極として別れ来にけり
 (森のやうに獣のやうに 河野裕子歌集より)

河野裕子さんというと、「たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか」という歌を教科書などで読んだことのある人もいるだろう。五感と身体性を織り込んだ瑞々しい情感を文語体と新鮮な表現で詠んだ歌人だ。
青林檎の歌はつまり、「唯一勇気を振り絞って青林檎を渡しただけで別れてきてしまった」ということなんだけど、青林檎っていうのは青春だったり未熟な恋のメタファーとして読むこともできる。となると、途端に青林檎の匂いと一緒に青春時代の淡く苦い恋の想い出が蘇ってきたり…しませんか。わたしだけかな。
『積極』の中では、この歌がとても効果的かつ印象的に使われている。漫画と歌の相乗効果が、胸をひりりと焼くのだ。
わたしが好きなのは、主人公が酔っ払ったシーン。彼女の語る言葉が短歌の世界のようで、そこからつながっていくラストにかけてやさしいのに切なく苦しくなる。恋を飛び越えた愛も確かに存在するのだ。

実は、『積極』を読んでぼろぼろと泣いたのは、漫画と歌が素晴らしいこともあるけど、個人的な想いが重なる部分があったからという理由もある。
高校3年の頃に現代文の教科担任だった先生が、その頃受験と家のことと発症したてのパニック障害で追い詰められていたわたしの支えになってくれた。父と同い年の先生で(わたしは両親が遅くになって生まれた子だ)、物静かに見えるけど個人的に話しかけるといろんな話をしてくれた。受験の息抜きにといろんな本を貸してくれた。何より、わたしの感性と言葉を認め応援し「好きだ」と言ってくれていた。
そのT先生のことを思い出したのだ。たぶん、わたしはT先生に認められていなかったら、こうして文章を書いていなかったと思う。

T先生については、またいずれ書くつもり。『センセイの鞄』と一緒に。
『積極』は、『センセイの鞄』が好きな人なら好きかもしれないな。あと、年の離れた、60前後の人に片想いをしたことのある人も。


三十一文字からこうしていくつもの解釈が生まれストーリーが紡がれるってとっても面白い。そういうエモい歌が詠みたいと思うし、もしT先生が今のこのブログや歌や小説を読んだらどう言うのかな、とも思う春が近い夜でした。

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