さらさら録

日々のさらさらの記録

短編小説の集い『のべらっくす』2月感想ノック

ここのところ、短歌と短編小説にまみれて追われてひいいいいいいたのしいいいいいいいいとなっている昨今ですが、みなさまにおかれましてはいかがお過ごしでしょうか。
とりあえず、月間スケジュールとして『のべらっくす』と『短歌の目』のリズムを確立したいところです。夜の時間がたっぷりある今のうちに、野球のペナントが始まるまでに…!

ということで、のべらっくす2月の感想です。

【第5回】短編小説の集い とりまとめ - 短編小説の集い「のべらっくす」

☆ * ☆ * ☆

『猫は「にゃん」と鳴かない』 - うつ病だけど、生きてます
痛いですその1。星屑くるみさんのあすかシリーズを読んでいると、川上弘美さんの『ニシノユキヒコの恋と冒険』を思い出します。もっとも、設定は逆ですが。
あすかの体に傷をつけめちゃくちゃにすることで、自分の受けた心の傷をもあすかに刻みこもうとしたんでしょうか。DV描写がとてもリアルで、ちょっと読んでてヘビィでした(個人的な理由もありますが)。あすかちゃんは猫と言っても飼い猫じゃなくて野良猫ですね、見た目だけはきれいな。


【第5回】短編小説の集い「のべらっくす」(テーマ:猫) - 本の覚書
ぐっと世界に引きこまれました。お寺って、こうした言い伝えの舞台には最適ですよね。猫背の猫舌なので、ちょっとびくびくしながら読みました。自分でもわからなくなっていく始末とおっしゃっていましたが、オチまで読んで戻って読み返してにやりとさせられましたよ。マラドーナの神の手の使い方が面白いです。時代背景にちょっと混乱してしまいました。和尚と少年との掛け合いも軽妙でいいです。
少年と同じ頃合いと思われる小学校中学年くらいの子供に読ませて感想を聞いてみたいです。


【第5回】短編小説の集いに参加してみた - 空想島(6畳半)
本当に初心者枠なのですか!というのが第一印象でした。とっても素敵なハートウォーミングなお話でした。朝香屋の店長のキャラがいいです。映像でばばーんと浮かびました。頭に浮かんだのは『あまちゃん』のいっそんでしたが、いっそんは顎ひげじゃなくてもみあげでした。すみません。時系列が少しわかりにくいので、もう少し整理されると読みやすくなると思います。こんな街で暮らしてみたいものです。次もきっと素敵な作品を読ませていただけると期待しております。


猫のいない場所 - マホ、カルチャー
痛いですその2。これが初エントリとは思えないほど、世界が作られています。神山くんに向かって淡々とシャッターを切る「僕」に、わたしは一番ぞくっとしました。銃口はレンズのメタファーではなく、逆にカメラが銃のメタファーなのだと読みました。
意図的にひらがなを多めにして書かれた文章が、無邪気な狂気を際立たせていてまたよかったです。痛い、けどこれは痛いからと目を背けてはいけないお話だと思いました。重苦しい読後感がすごかったです。ここにまた期待の新人が登場してうれしいです。


咲いている - 悩みは特にありません。
とにかくテンポよくぐいぐいと読んでしまいました。副詞や句点がリズム感を生み出しています。ウキコですらよくわからなかった木崎さんの姿が見えてくるのが不思議です。梅の花は希望、という言葉がとてもいいです。梅の花が、もとい希望が咲きほころび始めてきた季節にぴったりです。「牛乳」というネーミングのインパクトも。
ウキコという名前と竹輪をくわえた猫で日曜夕方のあのアニメを一瞬思い出しましたが、そんなことないやわらかな芽吹きのお話でした。さすが寺地さんです。


ライカ・ケイム・バック(第5回短編小説の集い 参加作) - 空想少年通信
SF猫その1。まずタイトルがとっても好きです。カム・バックじゃなくて、ケイム・バックなのがいいです。ライカ犬 *1のお話を知っているだけに、半ば泣きそうな気持ちではらはらしながら読みました。ライカとスプートニクって!うわあああ…と思っていたら優しいお話でよかったです。ライカが宇宙にいる間の世界がしっかり作られていてなおさらはらはらしました。それだけに、ラストのライカの仕草がまたかわいらしいです。ライカのような猫がお供にいたらいいなぁ、と思いました。


【創作】なまいきジャンクション−第5回短篇小説の集い - nerumae
SF猫その2。こちらもタイトルがとってもいい。そしてまさかの猫ひろし…!にゃー!手塚治虫に憧れるひろし少年の口調が手塚治虫の台詞回しをうまく模写しています。特に「バカにすんない。猫いっぴき助ける余力くらい残ってらあ。」は手塚治虫らしさがよく出てます。鯖は魚の鯖なのかサーバなのかと考えるのが楽しいです。巨匠から巨匠へバトンが渡るようなオチには目から鱗でした。あああー、そう繋げたかー、いやこりゃ参った。
猫らしき分岐調整官の台詞の「恐ろしいおそろしい」に笑ったはてなーはわたしだけではないはず。


『イフ』 - バンビのあくび
読み終えた時に脳内に流れていたのはテレレレレン、テレレレレン、テレレレテッテッテレレレレンというサングラスの人が出てくる短編ドラマ集のBGMでした。そういえばあのオープニングにも黒猫が出てきましたなぁ。『イフ』というタイトルおよび名前も意味深です。そのまま、あの番組のストーリーとしてドラマ化できそうです。イフと人間との距離感がいいですね。何かを暗示しているようで。イフの黒い毛の見え方が姿を変える描写も好きです。
いつもほんわかあたたかな文章を書かれるえこさんが、こうしたダークなお話を書かれるなんて。えこさんの引き出しの広さに脱帽です。


【創作】ちょこのまほうにかけられて - ちーさんのイイネあつめ
ご本人が「ファンタジックなほのぼの話」とおっしゃる通り、ファンタジックなほのぼの話でした。とにかくちょこが可愛いです。そして、ちょこに振り回される太一がまた愛おしい。冒頭の何も行動できなかった太一とラストの駆けまわる太一を見ると、いつの間にか成長したんだなぁ、この年頃の成長って早いよね…としみじみしました。15歳の少年の悶々とした青さの描写が好きです。


ユルバンを気にかけることしばらく 【第5回】短編小説の集い - 思惟ノート
ユルバンとは何だ、と思いながら読み始め、いつの間にか読み終えていました。世界観の説明がなくても自然と入り込めました。5000字というボリュームを感じさせず読みやすかったです。そして読みながら何度かくすくす笑ってしまいました。ヒムトとキンカの掛け合いも面白いですし、閻魔様に面会したシーンではずっと笑いっぱなしでした。とってもユーモラスなお話なんですが、ラストはしみじみとしてしまいました。ユルバンの謎は心地よく残りましたが、ヒムトとキンカの幸せを願わずにはいられないラストでした。


じいさんのふるぼけた家(第5回短編小説の集い) - ライティング・ハイ
猫にユーモアは似合います。この作品も、散りばめられたユーモアにんふっと笑いつつも、最後はしんみりと悲しく余韻が残ります。このギャップがいいですね、落差が効いてます。猫とじいさんの交流らしきものが楽しいですし、猫の台詞が面白い。あー、猫からはこう見えてるのかなぁ、と。このじいさんと猫を見て、ツンデレとはこのことかと思いました。「殺――――――――――――――――――――――ッ!!!!」からのネズミを捕って食うところが胸に突き刺さりました。それでも猫は生きていく。


雪どけ - 第5回短編小説の集い - - このはなブログ
きゅっと唇を噛みながら読みました。途中でふっと思い出したのは『ブラック・ジャック』の中の『ネコと庄三と』*2なのですが、あちらが救いのあるラストなのに対してこちらはひたすら切ないです。構成がとてもうまくて、接骨院と喫茶このはから帰宅したところで抱いていた疑念が形になりました。先へ先へと読みたくなります。『雪どけ』というタイトルも美しくて、描写しすぎない本編によく似合います。そして今、デコポンを食べたばかりなのにナポリタンが食べたいです。


交差点 - OK 余裕
最後の部分まで読んで「何処に?って聞きたいのはこっちだよ!」と言いそうになりました。書き出しが面白かったのでわくわくしてたらまさかの。ao-ruiさん世界に漂う独特の投げやり感が好きなのですが、そこを投げたか!という感想です。こう書くと貶してるみたいなんですが、褒めてます。小説という体裁で読まなければいいんじゃない、かなー。


「第五回 短編小説の集い」出品作品。招き猫の物語。 - 池波正太郎をめざして
絵や漫画などで、背景を描き込むことで人物を浮かぶ上がらせる手法があると聞いたことがあります。まさりんさんの小説を読んでいると、その緻密に書き込まれた場所から自然とキャラクターたちが立ち上がってきます。思わず豪徳寺をググりました。ダイソンの掃除機とシホのお祈りでくすっときたのですが、テキ屋のおっちゃんの口上が圧巻でした。脳内再生余裕ってやつです。オチを読んでおっちゃんの口上に戻って、にやっとしました。


短編小説 さばれもん - 片鱗カフェ
さばみそじゃなくて、さばれもん。あ、確かに塩焼きに柑橘類を絞ったら美味しそう。鯖の使い方が効いてますね。3の男の哀愁みたいなものが好きです。あああ、そういうことかぁ、と三度読んで理解しました。アロエさんとイワさんという名前が人間ではなく猫の名前だと誤読したのが1回目、アロエさんが夫の名前だと誤解し「イワさんって誰?」となったのが2回目でした。視点が切り替わっていく分、名前はわかりやすいものにしたほうがよかったのかもしれません。


夏の三叉路地裏公園 ~短編小説の集い宣伝~ - 無要の葉
「なー」という鳴き声の多いジロウかわええええと身悶えました。最近風が強くて夜なんか真冬より寒いんじゃないかって思うのに、倦んだような真夏の朝に引きずり込まれたようでした。モラトリアム小説ってラストに向かうまでのぼんやりした不安に引きずられることもあるのですが、これはある程度安心して気持ちよく読めました。三叉路と路地裏をくっつけたタイトルが好きです。一瞬、夏の大三角を思い出したのはここだけの話です。

以下は遅刻分です。

シュレーディンガーは語らない ― 【第5回】短編小説の集い 投稿したかったけど間に合わなかった作品 - ごくまトリックス
猫と鯖の親和性の高さに今回驚いています。たぶんサバ、およびサバ缶という音が気持ちいいからじゃないかと推測しています。マクガフィウム239、思わずググりましたがペンギンズに出てくる物質だったんですね。上げて落とすというシュレーディンガーの高等テクニックのおかげで、クライマックスでサイキの啜ったコーヒーの苦さが口に広がるようでした。読みながらぼんやりと、猫の思考実験で有名なシュレディンガーは物理学者だったっけ、ということを思い出しました。


短編小説の集い「のべらっくす」に参加しようとしたら期限が切れていた - Letter from Kyoto
『短歌の目』の感想でいい意味で身も蓋もないことをばっさりと言う川添さんからこんなリリカルなお話が出てくるとは思いませんでした。もっとニヒルなお話が出てくるかと(褒めてます)。「僕」と「君」が何者なのかはお題からしか推測することができませんが(タイトルがあったらそれが手がかりになったんじゃないかと思うととても惜しいです)、わたしは「僕」も「君」も猫として読みました。生きていくってこういうことなんだな、と漠然と考えながら読み終えました。


☆ * ☆ * ☆


『ねこのした』 - さらさら録
はい、拙作です。書いてみたかったことに挑戦しました。「とにかくダメな男とダメな女を書きたかった」「性描写に挑戦してみたかった」「女主人公を書いてみたかった」ってことでした。あと、一度でいいからのべらっくすの一次締切までに提出してみたかったのです。
千花の名前はマンチカンから来ています。諒次のモデルはいるわけではないのですが、なんか猫っぽい人っていますよね、時々。
実はラストの前にひとつ1000字ほどのエピソードがあったのですが、それはがっつり削っています。また、当初書いたものからラストを変更しています。したがって、公開したのはRev.2です。なんで削って変更したのかというと、諒次に対する解釈の邪魔になるだろうなぁ、千花が救われすぎだなぁと思ったからです。書いていて楽しかったのですが、あまりにも諒次に情けをかけすぎたエピソードだったので思い切ってすぱーんといきました。千花視点オンリーの三人称で書いてきて、諒次が千花をどう思ってるのかを想像してもらえたらいいなと思っていたのにこれじゃ諒次に対する解釈の幅が狭くなる!と。
削ったことで、諒次への解釈の制限が少なくなり、千花がいかに危ない人かが際立ったと思っています。
そして自分の猫の使い方が下手だと反省してます。


今回、お題が『猫』でしたが、こんなに幅広い作品が読めるとは思っていませんでした。自由気ままで奔放でしなやかで…といった自分の発想の貧しさを思い知らされました。猫と残虐性、猫とユーモア、猫とサバ缶の相性の良さにも気づきました。
また次回の『のべらっくす』、もしくは現在開催中の『短歌の目』でお会いいたしましょう。


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にゃお♪

*1:Google先生ライカ犬への愛情が泣ける。宇宙飛行士…ぶわっ

*2:http://www.akitashoten.co.jp/special/blackjack40/56

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