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さらさら録

日々のさらさらの記録

甲子園の空に笑え! - 川原泉

今日、仕事から帰ってきたらちょうど甲子園の広陵対三重戦をやってた。
しかも、三重高2点ビハインドの9回裏ツーアウト1、3塁。
打球がセンター前に抜けた瞬間大声で叫んじゃったよ。
今年は東邦も勝ったし大垣日大も8点差逆転勝ちしたし、東海3県が珍しく初戦突破しててとてもうれしい。


甲子園と聞いて思い出す漫画はなんだろう?
やっぱりドカベン?それともタッチ、おお振り、ダイヤのA…挙げ始めたらキリがないほどたくさんある。
その中でも異彩を放っているのが、川原泉の「甲子園の空に笑え!」だろう。

甲子園の空に笑え! (白泉社文庫)

甲子園の空に笑え! (白泉社文庫)

舞台は九州の田舎にある豆の木高校。
テンプレートのような、部員が9人で廃部寸前の野球部。
新任の女性教師が「若いから」というだけで野球部の監督を任されて…というストーリー。

球漫画としては、スポ根の対極に位置している。
とにかくゆるい。野球描写がそこまでたくさんでてくるわけでもなく、少女漫画的ご都合主義で話は進んでいく。
しかし、強引なご都合主義ではあるけど、野球のエッセンスみたいなものはぎゅっと濃縮されてるのだ。
・点をやらなきゃ負けることはない
・バント・盗塁・ヒットエンドラン・バスターなどを駆使してなんでもいいから1点取れ
そう、人数も9人ちょうどなら、やってる野球も絵に描いたようなスモール・ベースボール。
飛び抜けた実力者はいないけど、どこまでも基本に忠実で足腰の強い豆の木高校がどんどん勝ち上がっていくサマは気持ちいい。

女性監督・広岡を始めとした登場人物もキャラクター豊か。
広岡監督のセリフのひとつひとつが、いかにも体育会系の熱血なノリに反発する現実主義の文系って感じで痛快*1
選手たちはのんびりしていてポジティブ。丸刈りの選手なんてもちろんいないのである。
広岡監督に何だかんだとつっかかってくる高柳監督とのやり取りも、まるで夫婦漫才のように楽しい。
ほんわりした絵柄で描かれる彼らが愛しくてたまらなくなる。

読後の爽快感と胸のあたたかさをもたらす終盤は、とにかく泣いてしまう。
リアリストだった広岡監督が最後に夢を見て、理想に燃えていた高柳監督が最後に現実を見据えるところの視点の入れ替わりは見事。
甲子園の、そしてスポーツの夢と現実を、ゆるいけどしっかりと捉えているのだ。
だからこそ、無理のある展開の中にリアリティがあるのだ。


好きなセリフはたくさんあるけど、やっぱり一番を選ぶならこれ。

…あー きょうも
運が良いといいね
 楽しいといいね
  幸せだといいね

不安な朝に、何かを見守るときに、思わず心の中でつぶやいてしまうセリフ。
このセリフの澄み切ったやさしさと欲のなさは、ちょっと心が疲れたときに唱えてみると少しだけ元気になれるかも。
体育会系とは程遠い人への応援歌のような漫画、とも言えるだろう。


絵柄と題材で敬遠するのがもったいない漫画ではなかろうか。
夏の甲子園真っ盛りの時期にに読むのにおすすめ。



余談。
この漫画は今から30年前の1984年に連載されたもの。
甲子園に女性監督が出場という漫画の設定から30年経った今でも、現実は追いつくことなく女性監督の出場はないのだ*2
しかし、作中で広岡監督が女性監督だからと特別扱いされる描写はほとんどない。
そういう点も、読んでて気持ちいいのかもしれない。

*1:広岡の担当教科は生物だけど

*2:地方予選には女性監督が率いる高校が出場し白星も飾っている。けど、ニュースになるレベル

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