さらさら録

日々のさらさらの記録

インク工房で、自分だけのインクを作ってもらった

 万年筆メーカ、セーラーが行っているイベントにインク工房があります。インクブレンダーさんが、その場でお客さんの希望するインクを作ってくれるというものです。
イベント情報 | セーラー万年筆 |公式ウェブサイト
 関東メインだけど、全国の百貨店や文具店で行われるこの人気イベント。名古屋にはだいたい年1回7月に来るのです。去年は行けなかったけど、今年は行くことができました。朝9:30に並んだのに整理番号2桁だったということからも人気っぷりは窺えるかと思います。年々人気は過熱しているようです……。
 そして、去年から温めていた計画を移した結果のインクがこれです。
https://www.instagram.com/p/BIMYMx3DrDa/
 さて、このインクは何をモチーフにしているのか。正解はこちらです。
HELL−SEE【reissue】
syrup16gのアルバム、『HELL-SEE』のジャケットです。以前、友人が好きな曲でインクを作ってもらったと聴いてから、このジャケットをインクにしたい……と密かに思い続けてきたのでした。こうして並べてみるとなかなか色合いが再現できていると思いませんか?
 書いてみるとこんな感じです。
https://www.instagram.com/p/BIMgG5sjRrJ/
インクが多めに出たところは黒めに見えるようにして、焦げ茶に転ばない絶妙な赤を狙っていただきました。思いもしない色も混ぜて色を作っていかれるのでびっくりしましたが、書いてみて更にびっくり。まさに濃淡で赤黒のグラデーションができている……!何度か混ぜていただいて書き比べて選んだ色なので、もちろんお気に入りです。本当はもっと赤みが強くて血液っぽいのですが、画像のカラーバランスを調節しても色味の表現って難しいものです。
 インク工房では最後作った色に名前をつけるのですが、「これでお願いします」とHELL-SEEと書いたら、ブレンダーの石丸さんは笑いながら「案外真理かもしれませんよ」と言ってました。この色を作ってよかった……。

 インク工房のオーダーって様々で、曲もあれば好きな二次元キャラのイメージカラーもあったり、それこそお客様の数だけ思う色はあって、それを聞き出してぱぱぱっとインクをブレンドしていく石丸さんは流石だなぁと感心しきりでした。この石丸さんがまた素敵な方で、色の引き出しだけでなく話題の引き出しもたくさん持っていらっしゃるんですね。わたしが候補2と候補3で悩んでいるときも、「人間の目って、赤の識別に優れているからこうして迷われるんですよ。各社とも、青系のインクは多いけど赤系のインクが少ないのはそういう理由なんです。青系だとたいていどんなインクでも綺麗に見えるのですが、赤系はそうはいかないんです」なんてお話ししてくださいました。
 ちなみに、赤系のインクのオーダーはどの日でもコンスタントに3件位あるそうです。青系、緑系、紫系、茶色系がやっぱり多いようで、ただこのあたりの色は日によってまったく出なかったりと偏りもあるとか。そういったお話を聞きながら理想のインクを作ってもらう時間はまさに至福でした。
 残念なのは、石丸さんの写真を撮ることができなかったことです。石丸さんの写真を勝手に使い、ありもしない色を海賊版として売っている人々がいて、その対策なんだとか。リピートオーダーの休止もそのあたりが関係しているそうで(他にも理由はありますが)、万年筆とインクを愛する者としては悲しいことです。素敵な笑顔や鮮やかな手さばきを撮りたかっただけに無念です。あと、順番を取るためにエスカレータを駆け上がったり乗ろうとする人がいるのにエレベータの閉ボタンを押そうとしたりしてはダメですよ、インク工房は楽しむものであって競うものではないですよ。と、これは余談ですが。

 思い入れのある色をインクという形で具現化してもらえるインク工房、とっても楽しいです。もし機会があれば是非、インクブレンドと石丸さんの面白さ奥深さに触れてみてください。きっと、書くことやインクが好きになるはずです(と、横目で増えていくインク瓶を見ながら)。
 そして、石丸さんにはお身体ご自愛いただき、インクブレンダーの第一人者として永く活躍していただきたいとひっそり願っております。

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