さらさら録

日々のさらさらの記録

短歌の目 第17回:3月 わたしは失うものも無くした

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今月は連作仕立てです。よろしくお願いします!

1. 草

のんびりと牧草を食む牛たちは知らなくていい二人の関係

2. あま

あまりにも空が青く澄んでいてわたしは失うものも無くした

3. ぼたん

朝の日にぼたんが一つ照らされて夕べの汗は影へと変わる

4. 鳥

香ばしい香りを振りまく焼鳥屋その角抜けて会いに行きます

5. 雷

つんざいた雷鳴のように劇的な合図などなく幕は降りゆく

テーマ「捨」

しょうがないなんてため息一月分ゴミ袋に詰め空へと飛ばす

間引く芽の取捨選択すら躊躇う手もちろん想いを引き抜けなくて

散らかった部屋で囁く「捨てちゃえばいいのに」なんて、そんなに、軽く

うたの日出詠歌 17.02分

まいにち歌会うたの日の2月分まとめ。


02/01 切れるのは蟹座のはさみくらいでしょう私とあなたの関係でしょう/『蟹』

02/02 笑顔には二つの指が添えられてピースピースイェイピースピース/『二』

02/03 別れの言葉が聞こえなくてもその日は来ると鬼は言う/『都々逸』

02/04 やり直すためなら独りも厭わぬと魔法少女は涙を捨てた/『 魔 』

02/05 いつだって僕には僕の影がありつまり僕こそ光なんです/『 影 』

02/06 ぷっくりと赤いサナギにくちづけて二人の夜に蝶が飛び立つ/『サナギ』

02/07 積もるほどわかりやすくもない恋は雪と一緒に消えていくのか/『 積 』

02/08 少年の腰のあたりに刻まれた光の刻印輝く窓際/『腰』

02/09 わかってる 振り向くまでもなく横に私の孤独がいつもいること/『横』

02/10 雪の降る音で目覚めた今日だからコーヒーを丁寧に淹れてる/『自由詠』

02/11 夕凪の時間になったら会いに来て この海もきっと渡れるでしょう/『凪』

02/12 大口でハンバーガーを頬張ってランチに三日月浮かべている君/『ハンバーガー』

02/13 違和感を覚えた君の目は左利きで世界を見ているんだね/『違』

02/14 靴底と地面がキスをするように歩く少年 もう春が来る/『キス』

02/15 すっぴんが好きだとのたまう先生に白紙のノートを提出した日 『 すっぴん 』

02/16 「白衣とはフェティシズムの権化だ」と語る君のイヤホンを舐めたい 『 白衣 』

02/17 スーパーの雛飾りは二ヶ月前のクリスマスなんて知らない顔で 『 飾 』

02/18 風花とダンスするように歩く君 転んでもいいよ、人生たまには 『 ダンス 』

02/19 海原を泳ぐくじらのような君その腹の中で暮らしてみたい/『 くじら 』

02/20 ぽつぽつと志づゑばあちゃんの馴れ初めを聞いている昼下がりの病室/『 ゑ 』

02/21 震えてる胸の奥を知られぬよう水色レースのブラジャー着ける/『 胸 』

02/22 点滴を飲み干す右腕ぐったりと沈んだ重さでベッドを潰す 『 滴 』

02/23 無造作に裸足を投げ出し眠る君 その指をそっと奏でてみる夜 『 裸足 』

02/24 傷ひとつない柱に背をもたれてる 今だけ私の身長を刻む 『 柱 』

02/25 人ごみを泳ぐには頼りないひれ あなたはどうしてすいすい行けるの 『 泳 』

02/26 風を受け羽根を広げる仕草する どこまでもゆけ私のたましい 『 仕草 』

02/27 普通っぽいこともたまにはしてみたい レモン味したキスをするとか 『 っぽい 』

02/28 真夜中に書いた手紙を読んだのは引き出しの奥の練り消しだけだ 『 奥 』

自分の殻にヒビを入れる

わたしには強烈な認知の歪みがある。認知の歪みとは大雑把に言うと日常に支障をきたすほどの非合理的でネガティブな思い込みと自動思考である。わたしは認知の歪みを積み上げて殻を作り、その中で“駄目という言葉を人型にしたようなもの”として生きている。この殻が自己肯定感のなさや自己卑下につながっていることもわかっていて、それを苦しいと思いながらも今更変わることなんてできないと思っていた。
だけど、最近この殻にヒビが入ってきている。
何があったのかと言っても、劇的な何かがあったわけではない。ただ、去年に本を読んで以来、多くの人と関わりを持つようになったことくらいだ。
baumkuchen.hatenablog.jp
人と関わることで、人を通した自分を見ることができる。新たな自分の分人に会うことができる。わたしに関わってくれる人は有り難いことにわたしをそれぞれの形て想ってくれている。自己肯定感に乏しく、うつむいて生きているようなわたしのことを。友人知人を通したわたしを、わたしは嫌いじゃなかった。自分で自分を見たときはあんなに大嫌いなのに。
上記の過去記事から1年ほど経って、自分の中で自分を好きな割合が少しずつ増えていた。このまま殻の中にいたら苦しいということも嫌というほどわかった。そして、何よりわたし自身が、殻を壊したいと強く思うようになった。自己肯定感が低すぎて素直に褒め言葉を受け取れないけど、友人知人はわたしを褒めてくれる。その褒め言葉を素直に受け取れるようになりたいと思い始めた。日々の中で、人と関わる中で、自然とそうした気持ちが芽生えてきたのだ。幸い、今のわたしの周りには、何とか殻を破ろうとするわたしを見守ってくれる人がいる。今まで見えていなかっただけで、手だってちゃんと差し伸べられていた。ひとりで戦う必要なんて、どこにもなかった。
少しずつでいい、変わるんだ。
変わろうと思うことで、殻にヒビが入った。
殻を割った友人は、「とても気持ちいい」と言っていた。わたしも、その気持ちよさを味わいたい。だって、少しヒビが入っただけの今ですら、そのヒビから爽やかで気持ちいい風が吹き抜けてくるのだから。いつか全身でその風を浴びたい。もう、自分で自分を縛って苦しみたくはないのだ。今まで縛ってきたものを捨てることは簡単じゃないし、捨てることは怖くもある。だから、少しずつ手放していければいい。完全に殻が割れるまでにはまだまだ時間がかかるだろう。だけど、それでもいい。変わろうと思う気持ちを持っていれば、殻を割るきっかけだって掴めるだろうから。
わたしはもう、“駄目という言葉を人型にしたようなもの”じゃない。「自分も捨てたもんじゃないかも」なんて少しだけ思えてきた今はこうして、殻のヒビから入ってくる風に吹かれていよう。今までみたいに完全にうつむいてしまわないで、少しだけ前を向いて。3月とはいえ陽射しはもう眩しくて、なのにまだ風は強いけど空気はあたたかい。殻にヒビが入ったことを、祝福されているような気がした。

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