さらさら録

日々のさらさらの記録

『夜廻り猫』は、少しずつしか読めない

 最初に知ったのはフォロワーさんのリツイートだった。試し読みを読んで大泣きして、本を買うのはなるたけ控えようと思っていたのに走って買いに行った。

帯には「ひとり泣く人に寄りそう夜廻り猫の遠藤平蔵。」とある。強面な猫の平蔵が、心で泣いている人にそっと寄りそう8コマ漫画だ。平蔵は、アドバイスはしない。傾聴に徹し、そっと励ますだけ。心で泣いている人の状況が変わることは決してないのに、優しい気持ちになる。
comic-walker.com
ここから試し読みができるので、気になった方は是非。本には101話までしか収録されていないけど、すべてに描き下ろしのタイトル画がつけられている。紙でこそ味わってほしい本だと個人的には思う。
 
https://www.instagram.com/p/BHrUnWsDrJZ/

 やわらかいリネンを片手に読んでいると、その優しさとあたたかさに涙が止まらなくなってしまい、少しずつしか読めないのだ。でも、それでいいのだ。少しずつ少しずつ、心に染み渡るように読んでいけばいい。優しさやあたたかさを急ぐことはないのだ、人生を急ぐこともないのと同じように。

夕立の隙間

 雨雲レーダーを見ると大雨が来るというので、それまでにぐるりと散歩をしてきた。ポケットには歩数計付きのスマホと、野球中継を聞くためのポケットラジオ。外に出たら、夏の切れ目のような空だった。
https://www.instagram.com/p/BHZG1IyDrS3/
 そのまま歩く。駐車場で、「がんばれーがんばれードラゴンズー」と燃えドラを歌いながら子供が父親とトスバッティングをしていた。今、試合中なんだけどなぁと思いながら歩く。少年の応援のおかげか、ビシエドが追加点となるタイムリーを放った。
https://www.instagram.com/p/BHZG5GUjHKI/
 夕立の方向を確認しながら歩く。あたりにほんのりと夕立のにおいが立ち込めてきた。夏は嫌いだけど、夕立は好きだ。小さな台風のようなわくわく感、一発でそれとわかる夕立のにおい、独特の生ぬるさを冷ます大粒の雨。歩いているうちに、夕立は降り始めた。雨に濡れるのは嫌いじゃない、むしろ好きだ。濡れても風邪を引かないところも夕立の好きなところだ。こうして、行く当てなくぷらぷらと歩いているときの夕立は気持ちいい。日光過敏症かつ体温調節があまり効かない体には、夏の外出は堪える。だけど、雨はそれらから守ってくれるのだ。
 わたしは雨に濡れることをあまり厭わない人間なのだけど、それは漫画『はみだしっ子』の中の台詞の影響なのかもしれない。

みんな雨から逃げてくよ…
雨は…
ボクなんかにもふれてくれて…
雨音まで聞かせてくれるのにね…

雨は…
こんなにも優しいのにね…
<PART3 『だから旗ふるの』より>

 雨は、誰にだって等しく降る。そんな気がする。だからわたしは、雨が嫌いじゃないのだ。そして、憂鬱な夏に差し込む夕立を、雨のひとつとして好むのだ。

かなしさやさぶしさに、やさしい八木重吉の詩を

ツイッターのタイムラインに、フォロワーさんからこの言葉が流れてきた。

いろいろに
かんがへてみても
よのなかがきたなくて
きたなくて
じぶんがみにくくてならぬならば
しづかな花をおほきくかんがへるがいい
八木重吉

その言葉に胸を打たれたわたしは、青空文庫で彼の遺したほんの2冊の詩集をダウンロードした。

秋の瞳

秋の瞳

八木重吉と言われても知らない人は多いかもしれないが、ひょっとしたらこれらの詩は知っているかもしれない。

心よ


こころよ
では いっておいで

しかし
また もどっておいでね

やっぱり
ここが いいのだに

こころよ
では 行っておいで

素朴な琴


このあかるさのなかへ
ひとつの素朴な琴をおけば
秋の美しさに耐えかねて
琴はしづかに鳴りいだすだらう

『心よ』はEテレの『にほんごであそぼ』で歌になっている。わたしはそこで知った。

 八木重吉の詩は数行の短いものが多く、かなしさやさびしさにすうっとやさしく染み渡る。それは、彼がクリスチャンであったこと、29歳で夭折していることとも関係しているのかもしれない。人によっては、彼の作品を詩だと思わない人もいるだろう。だけどわたしは、言葉を削ぎ落とし研ぎ澄まして作られた、紛れも無い詩だと考えている。

 いくつか、好きな詩を挙げてみた。
 これからわたしは、かなしいときやさびしいときに、彼の詩を読むだろう。四季や死や子や自然や、身近な事象に向けられた彼のやさしい言葉と想いを。

つくしいもの


わたしみづからのなかでもいい
わたしの外の せかいでも いい
どこにか 「ほんとうに 美しいもの」は ないのか
それが 敵であつても かまわない
及びがたくても よい
ただ 在るといふことが 分りさへすれば、
ああ ひさしくも これを追ふにつかれたこころ

はらへたまつてゆく かなしみ


かなしみは しづかに たまつてくる
しみじみと そして なみなみと
たまりたまつてくる わたしの かなしみは
ひそかに だが つよく 透きとほつて ゆく

こうして わたしは 痴人のごとく
さいげんもなく かなしみを たべてゐる
いづくへとても ゆくところもないゆえ
のこりなく かなしみは はらへたまつてゆく

花がふってくると思う


花がふってくると思う
花がふってくるとおもう
この てのひらにうけとろうとおもう


ひかりとあそびたい
わらったり
哭ないたり
つきとばしあったりしてあそびたい

不思議


こころが美しくなると
そこいらが
明るく かるげになってくる
どんな不思議がうまれても
おどろかないとおもえてくる
はやく
不思議がうまれればいいなあとおもえてくる

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